代表取締役副社長 朝霧 重治氏
同社のビール部門は、設備投資にかなりの資金を投入していたため、収益的には厳しい状況が続いていた。やがて、2002年副社長に就任した重治氏は「ビール部門のリストラか、撤退か」を迫られることになった。
そういう中で、重治氏は白人男性がさつま芋のビールを特に高く評価してくれたこと、ドイツ大使館御用達のドイツ人をも唸らせるドイツビールを製造できるようになったこと。つまり自社の技術力に、大きな救いを見出した。重治氏は「あのツアーはブランドの再構築を目指す旅でした」と。
幸いにもヨーロッパの本場で同社商品の評価は高かった。重治氏は同社のビールが本場で「品質」の高いハードルを越えていることを改めて実感した。
また、これから同社が発泡酒を含む大手ビールメーカーのビールとの競争市場に参入しても勝ち目はない。価格も大手と同等の価格帯で出しても、消費者からは選ばれることはむずかしい。

同社では2002年ドイツ人のブラウマイスターが帰国をした。実はドイツのマイスターを採用すると同時に、日本人の20代の技術者をこのマイスターの下に配置し、この5年間でブラウマイスターからビールの歴史、技術、理論を修得し、職人としての教育を十分に受けている。
コエドブルワリーの工場内部
残された日本人の職人達は修得したビール醸造の基本をフルに活かして、独自のおいしい高品質のビール醸造の開発を重ね、日本人の繊細な感触を融合した醸造技術を発展させていく。
また、ビール部門の経営状態を改めて説明して危機感を共有するとともに、なぜ抜本的な改革に着手するのか理解を得ることにも取り組んだ。当事者全員の目標の共有がなければ、ビール事業の再構築はなし得ないからである。 時代も、あらゆる商品において価格が高く明確な違いが感じられるプレミアム商品と安価な定番商品との二極化が始まっていく。
重治氏は本格的なマーケティングに取り組んでいった。
それまで、大手メーカでは女性に向けた商品開発をほとんどしていなかった。テレビ広告でも男性が大ジョッキを片手に、こくこく飲むシーンがほとんどである。
家庭でも、喉が渇いたらまずビール。外でも最初は「まず生(なま)」から始まる。その後、焼酎や日本酒、ウィスキーというのが飲酒スタイルの平均的姿であった。またビール党はいるが、多くは生のジョッキを何杯も、である。こういう飲酒のスタイルが現在でも主流である。
これらの日本でのビールシーンはもう変わりようがないと、業界も消費者も思い込んでいた。重治氏は同社のビールのブランドを再構築するには、大胆にもそういう従来のビールシーンを変える戦略しかないという結論に達した。
ヨーロッパで品質や味で高いハードルを越えている同社のビールではあるが、残念ながら日本では観光地の土産物の「川越の地ビール」程度の認知しか得てこなかったと考えていた。
重治氏はマーケティング戦略の再構築、ブランドの再構築という大きなテーマと真正面から取り組む日々が続いた。
その結果、ビール部門の詳細な事業計画が策定されていった。その主たるポイントは

そして商品のラインナップは、色味香りのど越しの全ての面で、ビールの個性を感じてもらえるような5ラインナップを用意する。
5タイプのCOEDOビール

また、先のイタリーツアーの竹末俊昭団長(拓殖大学工学部工業デザイン学科教授)から紹介を受けた、デザイナー西沢明洋氏と何度も議論を重ねながら、パッケージ周りのデザインを検討し、最終的にいまのしゃれたパッケージ周りとなった。
黒のパッケージ
COEDOビールは本場の職人のビール醸造にのっとった手仕込みを大切にし、ドイツなどヨーロッパから原料を仕入れ、熟成にたっぷり時間を使い、クラフトビール、プレミアムビールに絞る。そこに協同商事のノウハウを載せて、日本人にも好まれる味や風味を出した結果、重治氏が打ち出した新しいビールシーンというコンセプトはじょじょに浸透していった。
現在、消費者は、COEDOを同社のオンラインショップ、その他百貨店・高級スーパーなどで購入できる。
また、COEDOが飲める飲食店は、ブルーノート(南青山JAZZクラブ)、カフェ・ミケランジェロ(代官山)、川越カントリークラブ、ACQUAVINO(広尾 イタリアン)などで、おしゃれで、たまにはちょっと非日常を楽しむ大人の店である。
また、イベント(オープニングレセプション)でも使用され、六本木ヒルズ森美術館、金沢21世紀美術館、デザインタイドなど、アートや豊かな生活を楽しむ感度の高いお客さまに、シャンペンに替わるウェルカム・ドリンクとして採用され、好評を博した。
重治氏は「レストランだけでなく、ご家庭においてはご夫婦できょうは結婚記念日だからCOEDOビールで。ホームパーティでのウエルカムドリンクで、いつもと違う雰囲気を楽しんで、ビールも選んで食事に合わせたりして飲んで欲しい」と語る。
今後の展開について、重治氏は「昨年夏以降は海外マーケットへの進出に挑戦し、その成果が徐々に出て、期待できると確信を持ちました。最近アメリカのロスアンゼルスでの商談会でも好評で、アメリカ、ロシア、オーストリア、香港など数年前からの構想を、いよいよ実行する時期になってきました」と頼もしい抱負を語ってくれた。
大量生産、大量消費を目指した時代から、消費者の中には量よりちょっと高くても、おいしいやたのしい、あるいは雰囲気がおしゃれなど、質を求める高感度嗜好の人が増えてきた。こういう傾向はビールだけでなく、他の食品にもいえるであろう。不景気の嵐の中でも、ほんもの嗜好の消費者は確実に、少しずつでも増えつつあることに注目したい。
取材の帰りさっそく、近所のスーパー(ザ・ガーデン)でCOEDOを4種類購入して、1日1本ずつ試飲した。それぞれ個性があっておいしい。風味もよい。小瓶で、私にはちょうどよい量である。デザインがしゃれている。
これからはビールがおいしい季節。30数年昔初めてのドイツで飲んだおいしかったあのビールが、ようやく日本でも登場してきた。うれしい限りである。COEDOビールの今後に注目していきたい。